引越し2010/07/15 03:54:21

年が明けて何回かの土曜日の深夜、いつものように階段をパタパタと降りる音がしたと思ったらめぐみ(仮称)がいつもの友達と一緒に入ってきた。

この日はなぜが四人掛けのテーブル席に座った。
最初からテーブル席に座るのは初めての事である。
「珍しいね」と声を掛けると「マスター、引っ越するんです」、
「最後の挨拶にきましたぁ」と元気そうにいう。
温かい梅酒を飲みたいというので友達のと二つホット梅酒をテーブルに運んだ。
「会社が移転するので千葉に引っ越すことになりました」
残念そうでも嬉しそうでもいつもの表情でもない落ち着いた口調でめぐみは話す。
一応今日が最後だという思いで友達ともゆっくり話したいということでテーブル席がいいということらしい。
二人で食事をした帰りに私にも「お別れの挨拶」のつもりで立ち寄ったということである。

半年以上来店していなかったのだが久しぶりに見えたと思ったらいきなりお別れの挨拶とはちょっとびっくりである。
就職してから二回目の来店であることを考えると学生時代のように気ままに酒など楽しんでいる時間は少ないのだろうと推測していたのだがそれにしても久しぶりである。

少しして三人組のお客さんが見えた。
めぐみたちにお願いして二人席のテーブルに移っていただいた。
ほんのちょっぴり活気付いた店内では「友達」の話声は一切聞こえなかった。
めぐみの声も聞こえたり聞こえなかったり、いつもの全開モードとは違う落ち着きがある。

三人組の片付けが終って、ハーブティーを差し入れしてあげた。
引越しを前にどんな思いなのか伝わっては来ないが今日はやや落ち着いている様子である。

急だった事もあり何の準備も餞別も出来ないままいつも通りの営業が終った。
行き当たりばったりのB型の特徴が良く出ている彼女の行動が、若い頃の自分に良く似ていると以前から感じていた。
自分が歩んで来た軌跡を似た思考で歩む彼女の軌跡がやけに共通するなと感じていたのだが、その軌跡も今日で途絶えてしまい残念な気持ちである。

                                           完

親孝行2010/01/30 07:10:01

店前の掃除が終わり中に入ろうというタイミングでめぐみ(仮名)が歩いてきた。
飲み会の帰りだという。
立ち話もなんだからお茶でも飲んでいかないかと提案してみる。
お湯を沸かそうとすると「喉が渇いてるからお酒がいい」と言い出した。
飲み足りなさそうではないのだが「喋りたい」んだなと思った。
珍しくスパークリングワインを頼んだ。
飲み会では和酒を飲んできたのかなと想像する間もなく
「親孝行したいんだけど何がいいかな?」といきなり聞いて来た。
この若さでこのタイミングで親孝行とは?と急な質問に驚いた。

世間一般で言われているようなありきたりのことしか思い浮かばない。
両親の誕生日や記念日などにプレゼントをするとか
温泉とかの小旅行に連れて行くとか、しかし既に実行済みだという。
就職して間もないのに貰った給料で親孝行とは中々感心する。

一人のお客さんが入ってきてテーブル席に座った。
気になるのか、 めぐみは「なぜカウンターに座らないの?」と
言わんばかりに振り返る。

振り返ったまま話が続きしまいにはグラスとミックスナッツを持って
その女性の対面に座ってしまった。
相変わらずマイペースである。
初対面なのに自己紹介もなく話し相手にしてしまっている。
その女性はめぐみよりは一回りくらい上だろうか?
初めて来た店で初めて会うめぐみの話をいやそうな素振りもせずに聞いている大人である。

カウンターにはたまに見える女性のお客さんがめぐみの荷物の隣に座っていた。

親孝行の話はお預けになったまま時間が過ぎていった。

眠い?2009/09/27 07:45:51

土曜日の日付が変わる頃にいつも通りにパタパタと足音を響かせてめぐみ(仮名)がやってきた。いつもの友達と一緒である。
飲んだ後に更に駅前の飲み屋街で二人で飲んでいたのだがその店の近くにあるキャバクラ?らしき店のマイクでのコールがうるさくて退店してきたのだという。
その飲み屋街にある数件の店はなぜだか入り口のドアを開けたままで営業しているところが数件あるのは私も確認していた。

席に着くなりいつもの克の注文を受けた。友達は芋焼酎仕込みの梅酒である。
今夜のめぐみはなんだかお疲れモードである、席に着いてから欠伸の連発である。

しかし酒を口につけると舌が回り始める。
今日のお題は幕張出張である。
東京駅から京葉線に乗るのだが、東京での生活が長い人なら誰もがその存在くらいは知っている京葉線(けいようせん)を初めて利用した彼女は「きょうよう線」と読むのだと思っていたらしい。
そしてその京葉線なのだが東京駅から乗ったのは問題ないのだが、ある駅から武蔵野線に乗り入れするタイプとそうでないタイプの二種類あることに気づかず、
たまたま乗った電車はそのまま武蔵野線に乗り入れていたらしく気が付いたときには目的地とは全く違う辺りにいたらしいのである。
駅員に聞いて来た路線を戻ったらしいのだが時既に遅し、いきなりの出張で「遅刻」したそうである。

眠いのか酒が進まず又欠伸である。

東京近辺の電車の路線や運行システムは都内に住んでいても利用しないエリアについては複雑で調べないと分からないものである。

地方出身の彼女が社会人になって初めての遠出であることを思えば、こんな事があってもおかしくは無い。
ある意味おかしいことに気が付いて途中で引き返すことが出来た事は 車内でうとうと寝ていたのではないのだなと、早朝から緊張していただろう彼女が想像できる。

ゆっくり時間が流れ今夜は一杯で引き上げた二人だったが、この間友達の声を聞くことは無かった。

社会人デビュー2009/07/05 03:09:00

店前を掃除していたら声をかけられた。
振り向くとめぐみ(仮称)である。
どこかに出かける様子である。
たずねると、いつもの友達と待ち合わせだと言う。

急いでいるのかすぐに、パタパタと足音を響かせ立ち去ってしまった。

数時間後、同じ足音が聞こえたと思ったら又めぐみである。
目黒で軽く飲んできたのだと言う。
わざわざ目黒まで行ったのに早い解散である。
まるで「カラスの行水」みたいな飲み会だ。

まずはビールから入った。
研修で長野だか山梨に行った話しから始まった。
今日の話題はその研修の「しごき」である。
彼女は大学を卒業して新社会人になったばかりである。
そしてその会社の研修が10日間位泊り込みであり
「きつかった」ということなのらしい。

数人でチームを組んでかなり大きな穴を掘ったのだという。
とにかく交代でこつこつとスコップで土を掻き出す単純作業である。
女性にはかなり堪える肉体労働だ。

今夜のために「しごき話」を取って置いたかのようによくしゃべる。
めぐめぐ全開モードである。
芋焼酎倉岳に移り次のしごきを話し始めた。

なにやら重石を持って湖の周りを10キロ走るのだそうだ。
途中でリタイアする人も出たらしいのだが負けず嫌いの彼女は
クリアしたという。
まるで自衛隊?のような訓練である。

この華奢な体で本当にクリアしたのだろうかと私は思ったが
嘘ではないだろう、このいきいきした喋りが物語っている、
社会人になって最初の難関を突破した充実感が全身から溢れている。
今日はこの充実感を披露したかったのだと私は気が付いた。

次はお気に入りの克である。
少し疲れたのか、全部吐き出してすっきりしたのか、克を味わうように 飲んでいる。

この「しごき」がどのように彼女の仕事に影響するのかいささか不思議に思った、
一体どんな業種の会社なんだろう?

ムサコホーリック2009/04/30 21:43:32

賑やかな話し声が聞こえた。,
もしやと思っているうちにドアが開き、「こんばんわぁ」と入ってくるなり椅子に座った。
いつもの友達二人とである。
機嫌が良いのかめぐめぐ全開である。
まずはビールの注文を頂き注いでる間にもしゃべっている。
その友達の誘いで目黒で飲んできた帰りだという。
楽しいひと時だったのだろう、二人の表情からそれが感じられる。
友達の表情はあまり変化が無いのだがそれでもなんとなくであるが いつもよりは楽しそうである。
しかし斜に構えて酒を飲むスタイルはいつもと変わらない。 その友達がもし男性だったら「シブイ」という言葉が似合うのではないかと私はそう感じている。
「ひくっ」しゃべっている最中にいきなりしゃっくりである。
相当飲んできたのか、あるいはテンション上がり過ぎたのか?
「ひくっ」連発し始めた。
「ムサコホーリック」というキャッチフレーズを思いつき、その名のイメージでカクテルを作ってもらったらどんなものがでてくるのか? というような話で盛り上がったとのことである。

ビールのお代わりである。
焼酎にいかないところをみるとかなり飲んでるのだろうと推測される。
友達が見かねたのか、背中を叩き始めた。
しかし相変わらず止まりそうも無い。
止まらないほど今夜は楽しくおいしい酒を飲んだのだろうと私は思った。
彼女がイメージする「ムサコホーリック」一度飲んでみたいものである。